2. メトロ・マニラ概観
1) エリア別にみるメトロ・マニラ

図3: Makati CityのGreenbelt
(2005.3.20)
オフィスビル、ショッピングモールなどが隣接するこのMakati City (MMGカテゴリ)には、ホテル、ショッピングモール、コンドミニアム、映画館、レストラン、スーパーマーケット、デパートなど、生活に必要な様々な施設を全て取り込んだ都市型テーマパークともいえるエリアがある。写真は、MakatiのGreenbelt3MMGカテゴリ)というショッピングモール。
(1) 商業都市、ビジネス街
 フィリピン共和国の首都圏メトロ・マニラは、人口約1000万人(※1)の大都市である。Makatiなどの商業都市では大型ショッピングモール、ホテルなどを中心とした街が形成されている。ディズニーランドのショッピング・モール版と思って頂くとイメージしやすいかと思う。ショッピング・モールの周辺にはビジネス用の高層ビルが並ぶ。街全体がそういう状況なので、買い物観光などで、数日間ここに宿泊するだけの人は、その外にある光景をあまり知らないだろう。そういう人々にとってメトロマニラは、ディズニーランドのような街である。


(2) "Squatter"と平均的な家庭
・ "Squatter"「不法占拠者」
 では、その外に出ると、どのような風景が見えるだろうか。地方からのバスが到着するターミナルには、職を求める地方からの流入者が多く、深夜、これから泊まる場所を探す前にその場で
寝てしまい、いつの間にかその路上で暮らし始める人々もいる(※2)。こうして住み着いていった人々が形成するのが"Squatter"と呼ばれる「不法占拠者(住宅)」である。

 この用語からは「都市貧民」「スラム」などが連想されるかもしれない。しかし実際、違法と合法の境界は明確ではないし、我々には「貧困」と映っても、実態は平均的な家庭であったりするケースがある。

 道路の壁を家の壁にして、ベニヤ板を張り巡らして造った家などは、一目でそれとわかる。しかし、鉄筋コンクリートの建物もある。ただし、中に入ると蜂の巣のようにベニヤで仕切られていて、それぞれに家族が住んでいる。このような場合は、建物に違法性はなく、そこに勝手に住んでいることが違法なのである (※3)。これよりも少し小綺麗にしていて、電気も、電話もケーブル・テレビもあるような家屋もある。

 このように"Squatter"といっても、レベルの差がかなりあり、一概に「貧民街」と定義してしまうのは無理がある。そして、上記で最後に述べた、ある程度きれいなSquatter家屋と、次に述べる平均的な家屋とは、境界が非常に曖昧である。

図4: 火事後3日ででき始めたSquatter(Pasay City)
2003年12月、Pasay CityMMGカテゴリ)のとある場所で大きな火事があった。左は火事の翌日。右は火事の3日後。写真に見るように、廃材を利用した家が急速に建ち始めているのがわかる。



・ 平均的な家庭
 ここでいう「平均的な家庭」とは「中産階級」という意味ではない。少々の借金を抱えながらも、帰るべき家があり、家族のほとんどが失業はしているが、1人は会社勤めをして何とか生計が成り立つという、フィリピンで多数を占めるであろう家庭の意味である。

 20代くらいで、何らかの仕事を持つ人に話を聞くと、兄弟、姉妹の学校費用、父母の生活費、場合によっては病気を抱える家族の医療費など、1人で家族全員を養っていることが多い (※4)。このように書くと、かなり悲惨な家庭状況を想像してしまいがちだが、当人達は、家族との結びつきを重んじ、家族と一緒にいられることの幸せを充分に享受している。


・ 中産階級
 私的にいうと「中産階級」は、お金持ちである。彼らは最新の携帯電話やマイカーをローンで買い、週末には家族でショッピングモールに買い物に出かけられるような人々である。私が初めてメトロ・マニラへ来た当初(2000年8月)は、日本では値段も付かないような、程度の酷い中古車や、オーナージープと呼ばれる手作りジープが車道の大半を占めていたが、今では日本や韓国の新車が、当たり前のように走っている。

 また、ショッピングモールなどを歩いていると、英語だけで会話を成立させる家族もいる。家庭の方針で、こどもに英語教育を徹底しているものと思われるが、聞いていてあまり気持ちのよいものではない。というのは、幼い子供の方が断然巧く、両親は子供の英語力についていけない傾向が強いからである。

>>次へ

-------脚注---------

  1. 2000年5月現在993万2560人。前掲書"2003 Philippine Statistical Year Book". p.1.
  2. 深夜、バスの中で寝過ごしてしまいBacralanにあるバスターミナルからEdsaへ向かって歩いていた際、暗闇の中で、突然、数十人の人間が1列に並んで寝ており、かなり驚かされた経験がある。
  3. 路上で数名とお酒を飲んでいて、トイレを借りる機会があり、建物の中に案内された。用を足すと隣家の食卓を囲む人と目が合う。
  4. 名前などは明かせないが、ある23歳の女性は、月給15000pesos(約30000円)程度で、父親や心臓に疾患を抱える弟の医療費兄弟の学校費、家族の食費など全てまかなっている。彼女の給料は、23歳という年齢を考えると充分によい方だが、これだけ出費がかさんでいると、経済的に裕福とは言い難い。彼女の年収は、センサスでは都市部一世帯あたりの年収「150000-249000pesos(30万円-50万円)」の帯に入る。これは都市部世帯の約23%にあたる。これ以上に年収の多い世帯は、22%程度で、この例より年収の少ない人々は、55%程度である。おおまかに見てもわかるように、彼女はよい給料を貰っている部類には入っているが、決して裕福ではない。そして、彼女のケースを裕福でないと見るならば、それ以下の収入の人々を合わせた大多数の人々は、これと似たり寄ったりか、それ以下の経済レベルにあるということになる。

投稿者 MMG : 11:31 | -