2) Barangay 667 (※1)のゴール・ポスト

図9: ゴールに書かれた"Say No to Drugs"
BRG738 Zone80, Manila City
(2003.2.21.)
 SK Barangayとは、地方政府における最小行政区Barangayの青年による組織である(※2)。成人のものと同じく、Chair Man、Kagawadなどからなり、バスケットボールゴールの設置や、各種イベントの企画実行を行い、予算もついている。ゴール・ポストの比較的正規なものは、市役所かSKバランガイが設置、ユニークなものは、誰かが勝手にそこに付けた物と考えて問題ない。以下、インタビューを基にゴール・ポストを巡る風景について記述する。


(1) ゴール・ポストの設置目的
 これはErmitaに限ったことではないが、SK BarangayやCity Hallによるスポーツ施設設置は、青少年の健全な育成にある。Barangay667でも同様で、若者をドラッグから遠ざけ、お互いに協力する心を養い、同じコミュニティー内での諍いをなくすという目的を説明して頂いた。


(2) ゴール・ポストの設置場所
 上記と関連して、どうして今の場所にゴールを設置したかについても尋ねた。設置場所の選択理由は、現実的で、方々の空き地や、ちょっとしたスペースに設置できるところを探したり、頼んでみたが、断られたり、そもそも他の建物が建つ予定だったりして、最終的に設置できるところが、そこしかなかったからというものであった。


(3) ゲームの禁止
 このような中で、2003年3月初旬、突然、バスケットボールが行われなくなった。その日はたまたまだろうと思っていたのだが、翌日、その翌日もゲームは行われていない。不思議に思ってKagawadに聞いてみると、プレイ中にボールがムスリムの人々が営むバナナ・キュー屋台に飛び込んで、商品を台無しにするため、バランガイで話し合って、そこでのプレイを禁止にしたそうである。

 状況を見る限り、そこにバナナキュー屋台が出現したのは、極々最近(2003年2月中旬)の話である。つまりバナナキュー屋台より前から、ポストはそこにあった。彼らはそこで毎日ゲームが行われているのを知りながら、そこに屋台を出したのである。

 引き金となったのは上記の事件であるが、KagawadのBongにいわせれば、ゲームの廃止は、必ずしも宗教的な衝突によるものではない。筆者もまたそう感じる。バナナ・キューの屋台を経営しているのが、ムスリムの人々であると書くと、宗教的な対立といった連想をしそうになるが、実態はそうではない。マニラ市内では少数派である彼らに対し、多少なりとも気兼ねがあり、将来的な衝突を避けるという意味はもちろん多少含まれている。しかしどちらかといえば、子どもの遊びと、生業との重要度を比べただけというのが大筋であろう。

 この問題の背景には、過剰に密集する家屋 (※3)、急激な都市化によるやや強引な道路整備などがその背景としてある。今回の事件は、宗教の対立というよりも、むしろこちらに問題があるように思える。これらの急激な都市化は、必ずしも住人主導で行われてはおらず、これらの変化と彼らの生活習慣との間に、明らかなギャップがあることを示している。

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-------脚注---------

  1. インタビューに拠れば、人口は3000人ほど。Ermitaの中に667の他668、669、670の4つのBarangayがある。
  2. "Baranhay"の青年組織で15歳から21歳までのBarangay住人(6ヶ月以上居住する者から選出)によって組織される。同上p.169.
  3. Manila Cityの人口密度(/平方km)は、2000年の統計で、実に6万3294人(前掲書"2003 Philippines Statistical Year Book"p.15)で、メトロ・マニラの1万6091という平均を遙かに上回る。ただし、これはあくまで統計に載る人々の数字であり、毎日のように見知らぬ人が家の前で寝ている(地方からの流入者)状況にあっては、実際の数は、これを上回ると推測される。

投稿者 MMG : 11:50 | -