2008年5月4日

Sigarilyas 四角豆 うりずん シガリリャス

文、写真: 美山治
Text & Photograph: Miyama Osamu

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写真1:Sigarilyas (08.05.05)
 2008年5月4日。オフィスからの帰りにSM Makatiのスーパーに寄って食材を物色していた。最近は男性一人でスーパーをウロウロしている人を時折見かけるようになった。もっともこれは外国人が多い。一人で行動するのをあまり好まないというか、いつも誰かと一緒にいるのが大前提であるフィリピン人にとって、野菜を手に取ってしげしげと眺める一人客の外国人である私は奇妙な存在なのだろう。日本でも2、30年前だと男性一人でスーパーの袋をぶら下げて帰途につくというのはあまり一般的な光景ではなかったような記憶がある。もっとも現在の日本でもそういう光景は格好悪いと写るのかもしれないが。

 前置きが長い上に話が最初から逸れたので本題に移る。この日 "Ntv Potato"と記された野菜を見つけた。ここのスーパーでは商品名や値段が記されたシールに"Ntv"という記述を用いている。これは"Native"の省略表記だ。経験上この場合の"Native"は「フィリピン原産種」かあるいは「フィリピンで伝統的に食べられている」というような意味である。例えば "Ntv Tomato" は直径4cm程度で、日本のスーパーマーケットで見かけるトマトとは違う。甘みが少なく酸味が強めでトマトソースを作るにはこっちの方が向いている。

写真2:茹でてみた (08.05.05)
 話がまた逸れた。緑色の太い茎か多肉質の葉っぱにしか見えないその野菜が、なぜ「ポテト」なのか全く理解できず、近くにいた店員さんに「これはポテトなんですか?」と聞いてみた。忙しそうに動き回っていた彼女は元気よく「はい。ポテトです。」と答えてくれた。確かに商品名が「ネイティブ ポテト」なのだから間違いではないけれど、これでは埒があかない。「タガログ語でなんて言うんですか?」と聞くと「Sigarilsです。」という答えが返って来た。最初からそう尋ねればよかった。

 民俗分類されている方名を、文化的背景を無視して他言語に直訳すると動植物は明後日の方向にカテゴライズされてしまう。例えばマレー語の「オランウータン」は「森の人」を意味するが、それを英語にそのまま置き換えると "human in forest" という訳の分からないことになる。確かにウータンさんは思慮深い顔をしている。でも彼らは霊長類ヒト科ではない。

 オランウータンの場合、その姿を見ればヒトなのか猿の仲間なのかは一目瞭然なので、動物学者がうっかり霊長類ヒト科に分類してしまうということはないだろう。しかしメロンが果物なのか野菜なのか、クジラが魚なのか獣なのかというのは見た目だけでは分からない。メロンは瓜科の野菜に分類されるけれど、スーパーでは果物コーナーに並んでいる。メロンとキュウリが同じ仲間だというのはにわかには理解しがたい。
 当該文化においてその動植物がどういう風に分類されるかを調査することで、その文化圏の認識体系や世界観を把握しようとしたのが例のコンクリンやバーリンによる認識人類学的研究(*脚注参照)だが、この話を続けるとさらに話が逸れてしまうのでここでは省略する。

写真3:マヨネーズをかけてみた(08.05.05)
 うちに帰ってこの"Sigarils"とやらを眺めてみる。少なくとも芋じゃないなあと思いながら Google と Wkipedia で検索をはじめる。どうやら豆科の植物らしい。沖縄でも栽培しているらしく、当地では「うりずん」と呼ぶようだ。生のままでかじってみると苦みとともに炭水化物系かあるいは植物性タンパク質の味がした。確かに見た目と違ってイモのような味だ。もしかするとフィリピンの民俗分類ではイモなのかもしれない。手折ってみると5mm程度の空洞の中から1mmくらいの種子が出てきた。ああ、確かに豆だ。茎に見える外皮はどうやら豆のサヤらしい。もう少しかじってみると何かの味に似ていることに気づいた。見た目に惑わされ、最初はそれが何なのか分からなかったが、はたと気がついた。枝豆だ。ただ、枝豆と違って豆の部分を食べるのではなくサヤの部分を食すので、食感的には豆類というよりは肉厚の野菜に近い。

 買ったはいいけれど調理法を知らなかったので、枝豆風にさっと茹でてざるに揚げ、塩を少々ふってみた。かじってみると独特の苦みがあって旨い。同じくサヤの部分を食べるサヤエンドウと違い、スジばった感じはない。気になったのは独特のアクで、少しクセがあるのでマヨネーズをかけてみた。少々アクが和らいだが、これは私の思いつき調理法なので、本当はアク抜きをしたり、表皮を少し削いだりする必要があるのかもしれない。多分、小さめに切って胡麻油か何かで炒めれば、アクはほとんど感じないと思う。今度、他の野菜と一緒に炒めてみよう。

---------脚注と関連リンク---------
・ 値段: Sigarils (298g)で 26.8 pesos
・ 「食材辞典」ホームページ内の「四角豆-うりずん」に関する記載
・ "Wikipedia"内の「四角豆」に関する記述
・ "Market Manila"ホームページ内の"Sigarilyas Winged Beans"に関する記載

<認識人類学関連の文献>
1. Conklin. H. C (1955) The relationof Hanunoo Culture to the Plants World. Ph. D. Dissertation, Yale University.
2. Berlin et al (1973) Raven General Principles of Classsification and Nomenclature in Folk Biology. American Anthropologist 75(2).

投稿者 Admin : 09:36 | 野菜